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時間のあるときに憲兵団に来てはナイルの雑務を手伝うジャンの姿。
その光景に憲兵団の兵士も慣れてきたのか調査兵団のジャケットを着ている少年に驚くことはなくなった。
非番だと言っていたのに、その非番を潰してまで王都にある憲兵団に来る。
今日は比較的に書類も少なく、時間に余裕が出来そうだ。
午後からは構ってやるかと思いながら、ナイルの執務室で雑用をしているジャンを見遣る。
こうして雑務を手伝ってくれるのは非常に有り難いが、申し訳ない気分にもなった。
「午後からは、ゆっくりするぞ」
「あ、もう終わりそうなんですか?」
「誰かさんが手伝ってくれたおかげで早く終わりそうだ」
何気ないナイルの言葉にも表情を綻ばせるジャンを見るとナイルの表情も自然と綻ぶ。
一段落したところでペンを置くとジャンは温かいはちみつレモンが注がれたマグカップを置いた。
軽く湯気を払うとナイルは淹れてもらったはちみつレモンを飲む。
「おっさん、和むわー」
椅子に座りながら、大きく伸びをするナイルにジャンは小さく笑った。
何時も直向に頑張っているジャンに何時ものように飴玉をやろうと引き出しを開ける。
引き出しを開けてから最近は忙しくて、飴玉の補充が出来ていなかったことに気付いてしまった。
乱雑な引き出しの中にはインクやら書類やらがあるだけでプレゼントできるようなものはない。
なくしたとばかり思っていた懐中時計を発見したくらいで他には何もなかった。
「探し物、ですか?」
「飴玉を切らしてっから、ご褒美的なものがないか探してんだけどな」
「俺のってことですか?」
「他に誰かいんの?」
何処を漁っても出てきそうにないのでナイルは引き出しを閉める。
それから「じゃあ、飯でも奢ってやるよ」と提案するとジャンは首を横に振った。
飴玉でなければ駄目なのだろうかと首を傾げてしまう。
「飴玉しか嫌なの?」
「そうじゃなくて、他のものが欲しいなって…」
「おっさんが今すぐに用意できるもの?」
「ナイルさんにしか用意できないものです…」
「おっさんの身体か!? ガキには早すぎるから無理だぞ」
フザケたナイルの言葉にジャンは「違います!」と大きく否定をした。
しかし、その後に「強ち違わないかも…」と首を傾げている。
この子ども考えていることは分からない。
取り敢えず、何が欲しいのかナイルはジャンに尋ねてみた。
すると俯いたジャンは小さな声で「キスの練習、させてほしいです」と提案をしてくる。
「…お前、ヘタクソだもんな…」
「だから、練習って言ってるじゃないですか!」
「分かった! 練習に付き合ってやるからキャンキャン喚くな」
それだけ言うとナイルは椅子から立ち上がり、執務室のドアに鍵をかけた。
窓から離れたソファに腰を下ろしたナイルは対面するように立っているジャンの顔を見上げる。
もう既に顔が真っ赤になっているのだが、この調子で大丈夫なのだろうかと不安になった。
「おっさん、どうしとけばイイわけ?」
「すッ…、すす、す、座ってて、ください…」
「座ってるだけでイイんだな? 俺からは何もしないぞ?」
「は、はひ…」
「声が裏返ってるし、マジで挙動不審だし、おっさんのほうが怖いんだけど…」
色を知る年齢だと思うのだが、こんな調子だと当分は何も出来そうにない。
まあ、何かをするにしても準備期間が必要だとは思ってはいるが…。
座っているナイルの前にガチガチに固まっている姿にナイルは苦笑いを浮かべるしかない。
キスの練習に付き合えと言われてから数分が経つがジャンは深呼吸を繰り返すだけ。
一体、何時まで深呼吸を繰り返すつもりなのだろうかとさえ思う。
「おっさんからのアドバイスしてもイイ?」
「はひぃいッ! な、なな、何でしょう!?」
「いきなり唇にしようと思うから緊張すんじゃないのか?」
「はえ?」
「キスのことについて無知なガキンチョに講義をしてあげよう、おっさんが…」
ポンポンと隣の空いたスペースに座るように促すとジャンは素直にナイルの隣に座った。
それからナイルはジャンの髪や鼻や頬に軽く触れるだけのキスをする。
一応、練習のために残しておこうと唇にはしない。
「キスする場所に意味があるって知ってるか?」
「そんなのあるんですか? 初めて知りましたけど…」
「じゃあ、質問。 おっさんにキスしたいと思う場所は何処だ?」
「は? えっと、思い付くのは唇に瞼に耳に首筋や喉元ですかね…」
「…まあ、何となく分かるな…」
ジャンの答えを聞いてからナイルは少し呆れたように息を吐いた。
それからキスをしたい場所と意味を教えてやるとジャンの顔が赤くなっていく。
唇は愛情、瞼は憧憬、耳は誘惑、喉は欲求、首筋は執着。
意識はしていなくとも軽い欲求不満なのだろうか。
ナイルがキスをした場所は思慕や愛玩や親愛の意味を持つ場所だった。
「唇が緊張するなら、緊張しなさそうな場所にキスしていけ」
「え?」
「おっさん、何か言われない限りは動かないから」
「わ、分かりました…!」
やる気満々のジャンに若干の不安を感じながらもナイルはソファに身を委ねる。
背凭れに凭れ掛かるとジャンがナイルの太腿から膝にかけての場所に腰を下ろした。
こういう大胆な行動が出来るくせにキスは出来ないんだなと目を閉じる。
成すがままの状態でいるナイルの手を持つと指先に軽くキスしてから手首に噛み付くようにキスをされた。
それからシャツの上から腕にキスをして、首筋に唇を押し付けられる。
シャツのボタンを外されると鎖骨辺りにキスをされた。
「ナイルさん…」
「ん?」
「俺、ヤバイです」
「何が?」
「凄い興奮するんですけど…」
「頼むから、おっさんに盛るな」
ジャンの息が軽く上がっているのが息遣いから分かる。
首に腕を回されると肩口に顔を埋めて、首筋や耳やらを舐められた。
されるのはキスだけだと思っていたので流石にナイルもビクリと身体を震わせる。
「キスの練習だろ! マジで盛るな! おっさん、困るから!」
「だって、ナイルさんの匂いを嗅いでると止まらなくなってくるんです」
「ガキが変態発言するな! 舐めるの禁止! キスだけにしとけ!」
「止めなかったら?」
「二度と憲兵団の兵舎に入れない、おっさんの権限で」
その言葉は効果覿面だったようでジャンは舐めるのを止めた。
今ばかりは自分の『師団長』という肩書きを有り難く感じてしまう。
少し息を上がらせたままでジャンはナイルの顔にキスをした。
頬やら額やら瞼やらにキスをされ、ゆっくりと唇を重ねられる。
視界を遮っているせいだろうためなのか唇にキスをされているより犬に舐め回されてる気分だ。
「おい、もう少し色気のあるキスは出来ないのか?」
「だって、今は練習でしょ? 俺の好きなようにやらせてもらいます」
好きなようにしろと言ったのは自分なので諦めることにする。
しかし、口周りがベトベトなので後で顔を洗わないと駄目だなと考えていた。
少し上擦った声で「ナイルさん、口開けてください」と言われたので素直に開ける。
「んッ…んむッ…」
上手いキスとは言えないと思いながら、ナイルは唇を重ねたままでジャンの首の後ろに手を回した。
頭を固定すると少しだけ唇を離してからジャンの表情を確認する。
それから少しだけ笑ったナイルは唇が触れるだけのキスで何度か角度を変えた。
舌先でジャンの唇を突くと戸惑い気味に唇が開いたので舌を差し込む。
口の中で少しだけ舌を絡め合い、ジャンの舌を軽く吸った。
固定をしていた首の後ろにあった手を首元へと持っていき、もう片方は腰を撫でるように添える。
「ふ、あッ…!」
「はい、おっさんのキステクニックは終了」
唇を離してはみるものの、ジャンが膝の上から退いてくれそうな気配がない。
それどころか身体全体をナイルに預けているような格好で「はッ、はッ…」と息継ぎをしている。
無茶をさせすぎただろうかと思いながら、ナイルはジャンの頭をポンポンと撫でた。
「おっさん、顔を洗いに行きたいんだけど…」
「立てないから、後にしてください…」
「もしかして、あのキスだけで腰砕けた?」
「そッ、そうですよ! 何か文句あります!?」
「逆ギレかよ!」
全く身体に力が入っていないようでナイルは天井を仰ぎ見る。
ガキンチョには無理だったかと思いながら、ジャンの回復を待つことにした。
まだ立てない状況ではあるが、少しマシになってきた頃を見計らうとジャンの身体をソファに預ける。
ナイルは執務室を出ていき、唾液塗れの顔を水で洗った。
ポケットに入ってあるハンドタオルを手にすると、それを水に浸してからキツく絞る。
それから執務室に戻ると濡れたハンドタオルをジャンに手渡した。
「少しはスッキリするだろ?」
「何で、そんなに普通なんですか…?」
「お前みたいなガキと一緒にすんな」
「腹立つ…!」
「おっさんの腰を砕かせるようなキスが出来るようになってからデカイ口を叩け」
「俺が何も言わなかったら、何もしないとか言ってたくせに…!」
「余りにヘタクソだから実際に身体に教え込んだほうがイイのかと思った心遣いだ」
毒吐きながら、ジャンはハンドタオルで口の周りを拭っている。
その光景に違和感を感じたナイルは小さく首を傾げた。
意識的にしているのか、それとも無意識なのか。
「なァ、何で口は拭かねェの?」
「へ? ナ、ナイルさんとキスしたから…」
キスはヘタクソすぎるのに、こういう人の気持ちを煽ることに関しては天才的だ。
勢いでキスをしてやりたくなるが、我慢をしたナイルはジャンの頭を撫でる。
それに対して、嬉しそうな顔でジャンはナイルを見上げていた。
「おっさんの完敗かも…」
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