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何時もは誰も近寄ってこない特等席なのに…。
授業が終わった後、私のところに集まってくるクラスメイトの女子たち。
聞きたいことは分かりきっている、さっきの授業前のことだ。
「アニちゃん、ジャンくんと付き合ってるの?」
直球で尋ねてくるのかと思いながら、私は授業で使っていた教科書とノートを仕舞う。
ジャンは見た目も悪くないので女子から人気があるのは知っていた。
だから、私を迎えに来るとか端的な言葉しか言わなかったから勘違いされた。
こんな面倒臭いことに巻き込まれるのイヤなんだけど。
次の授業の用意をしながら、私は「付き合ってない」とだけ答える。
付き合っていないというよりも実際は付き纏われているだけ。
「でも、よく一緒にいるよね?」
面倒臭い、途轍もなく面倒臭い。
自分が知りたいなら、本人に直接にでも聞きに行けばいいのに。
どうして、いちいち私に聞こうとするの?
「よく忘れ物をするから貸してるだけ」
「アニちゃんが休んだときは誰にも借りなかったんだよ?」
知らないよ、そんなこと。 どうだっていい。
アイツが好きなのは先生だし、アンタたちのことだって眼中にないんだよ。
このことが言えれば、楽にはなれるんだろうけど…。
寧ろ、私は被害者だ。
先生に惚れているせいで相談をされたりするんだから。
聞きたくもないことを喋られて、私だけの時間を悉く邪魔してくる。
「このクラスに好きな人でもいるんじゃない?」
その相手、私は知ってるけどね。
私の言葉で煩い声でハシャぐクラスメイトを一瞥した。
アンタたちじゃないよって言ってあげたいけど、そこまで親切じゃない。
本鈴が鳴ったので漸く私の周りから人がいなくなる。
休憩は先生とジャンとクラスメイトに邪魔をされるなんて最低。
しかも、昼休みすらも邪魔されるとか有り得ない。
『面白くない授業…』
この先生の授業は余り好きじゃない。
教科書を読んでるだけの授業なんて受けるだけ時間の無駄。
一人で読んでるのと一緒だし、耳障りな声がないことを思うと自分で読んでいるほうがマシ。
「次の場所を読んでください」
小学生の国語の授業みたいで真面目に受けているのがバカらしい。
これなら、歴史の授業のほうが余程マシだ。 本人には口が裂けても言わないけど。
あの人の授業の好い加減さは学校内でも有名な話だ。
飲み会の次の日などは悲惨で「おっさん、喋ると吐くから勝手に勉強しとけ」と放置するのは当たり前。
通常の授業で真面目に教鞭を振るっている姿を見たことがないくらいだ。
補習を受けたことがないから私は知らないけど、サシャが「分かりやすくてビックリしました」と驚いていた。
ツマラない授業に飽きた私は窓から見えるグラウンドを眺める。
外はイイ天気で、こんな教室にいるのが勿体ない。
頬杖をついてボンヤリしていると授業が終わったようで私は小さく息を吐く。
「アニー!」
何で、そんなに早い? 私、まだ教科書も仕舞ってないのに。
ジャンの姿で教室が少しザワついてから私のほうに視線が向けられる。
来る前に逃げようと思っていたのに、こんなに早く現れるとは思いもしなかった。
「ホラ、一緒に行くぞ!」
だから、無闇に『一緒』とか言わないでくれる?
勘違いされると面倒に巻き込まれるの私なんだから。
嫌々ながらも私はスクールバックからお弁当の入った巾着を取り出した。
もどかしいのかジャンは私のほうに歩いてきて、挙句には私の腕を徐に掴んだ。
そういうの、ホントに止めてよ。 ちゃんと口で言えば良いのに。
「勘違いされるから私に触らないで。 次に触ったら、はっ倒すから」
「は? 勘違いって? さっさと食いに行こうぜ!」
コイツの気持ちを悟らない先生も鈍いが、他の女子の気持ちを悟らないコイツも鈍い。
身長差があるために私はジャンに引き摺られるような格好で中庭に向かう。
でも、今日は天気が良いから外で食べるのも悪くない。
「おー! 来た来た! おっさん、10分前から待ってたんだぞ」
オカシイでしょ、それ。 明らかに授業中じゃない。
しかも、どうしてピクニック用のビニールシートが敷かれているの?
考えられることは1つしかないので考えることは止めた。
木陰になっているところに敷かれており、私たちは其処に座ることになる。
風も気持ちが良いし、悪くはない。 この2人がいなければの話。
「ホイ! いちごオレと飲むヨーグルト!」
私とジャンに差し出される飲み物を受け取った。
ジャンを見遣ると本当に嬉しそうで、この顔をクラスの女子に見せてやりたい。
恋愛ごとに興味のない私でさえ分かるのだから相当なものだ。
「アニ、小食すぎるぞ? だから、お前は身長も胸も成長しないんだなァ…」
私のお弁当箱を見た先生が言った言葉に確実な殺意が芽生える。
先生のお弁当箱に入っていた唐揚げとアスパラベーコンを蓋に乗せられた。
私に食べろということなの、これは…。
「これ、誰が作ったの?」
「は? ああ、唐揚げとアスパラベーコンか? おっさんが作った!
嫁さんの悪阻が酷くてな、最近の弁当は自分で作ってんだよ。
おっさん、凄くね!? 今、おっさんを旦那にしたいとか思っただろ?」
「いえ、絶対にしたくないです」
これは奥さんではなく、先生の作ったものなのか。
私は蓋に乗せられている唐揚げとアスパラベーコンをジャンのほうに向けた。
それから「これ、食べなよ」とジャンに告げる。
予想していないことだったのだろう。
ジャンはキョトンとした顔で私の顔を見つめていた。
「え? 俺?」
「他に誰がいるの?」
「貰ったの、お前だろ?」
「じゃあ、私はアンタのオカズから何か貰うから」
気を利かしてあげたんだから、それくらい分かりなさいよ。
ジャンのお弁当箱からタコさんウインナーとプチトマトを貰うことにした。
一応、等価交換だ。 2つあげたから、2つ貰ったんだから。
「おっさんの手料理なのに!?」
「脂っこいの嫌いだから」
「お前の弁当に入ってるミートボールはイイのに!?」
「先生の作ったものに不安しかないから」
タコさんウインナーを口に放り込んでからジャンに「はい」とオカズをあげる。
漸く私の気遣いに気が付いたようでジャンは小さな声で「さんきゅ」と礼を言ってきた。
これだけしてあげてるんだから、これ以上の迷惑を掛けないでほしい。
恐る恐るといった感じでジャンは先生が作ったアスパラベーコンを口に入れる。
アンタ、幸せそうな顔が表に出すぎてるから。 ホントに気持ち悪い。
「お、美味しいです…」
「だろ!? 食えなかったことを後悔するがイイ、アニ・レオンハート!」
「何処の雑魚キャラですか?」
黙々と自分のお弁当に手を付けながら、私はお弁当を空にした。
先生に貰った紙パックのいちごオレにストローを刺す。
甘ったるい味が口の中に広がるけど、嫌いじゃない。
「おっさん、昼の授業から寝れそう!」
「教師失格ですね、それ」
ふとジャンのほうを見遣ると、まだ唐揚げをモグモグと食べている。
何回、唐揚げを噛んだら気が済むの? それとも顎を鍛えるトレーニングなの?
味わうようにというのは、こういうことなのかもしれない。
スカートのポケットからスマホを取り出して、時間を確認してみる。
あと、15分くらいは大丈夫そうだから少し休もう。
此処は滅多に人も通らないし、煩いクラスメイトもいない。
「ん!? んん!?」
「何?」
「今、何時何分?」
「12時28分だけど?」
「おっさん、職員会議が12時半からあるの忘れてた!」
弁当箱を片付けた先生は間に合うわけもないのにバタバタと慌て出す。
そのサンダルで走れるとは思えないし、本気で走る気もないんだろうけど…。
ビニールシートを片付けるのかと腰を上げようとしたとき。
「アニとジャンよ、その大事なピクニックシートはお前たちに預ける!
これから晴れた昼休みには必ず持参するように! じゃッ!」
「「…………は?」」
ペタンペタンと間抜けな音を出しながら、走っていく先生の後姿を私たちは眺めていた。
残された私とジャンは呆然とピクニックシートの上に座っているだけ。
今すぐに片付けないなら、もう少し此処にいても良い。
出来れば1人が良いんだけど、このピクニックシートはジャンに預けたい。
こんな面倒臭いものは持ちたくないから。
「これ、片付ける?」
「もう少し、此処にいようぜ」
「それと『これ』はアンタが預かってね」
「何で俺が預かんの?」
「先生と一緒にお弁当を食べたいなら、持っといたほうが良いと思うけど?」
私の言葉に何も返してこないということは預かってくれるのだろう。
今日はホントに散々な一日だったと私は小さく息を吐いた。
午後からは邪魔されないように面倒だけど、トイレに行くなりして時間を潰そう。
「アニ、さっきはありがとな…」
「私、唐揚げもアスパラベーコンも好きじゃないから」
「それでも、ありがと」
「感謝するなら、わざわざ忘れ物を借りに来ないで」
「それとこれは話が別だけど…」
また借りに来るつもりかと思いながら、私は青い空を仰いだ。
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