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中学校のときも同じだったから私は全く気にしない。
誰かと戯れたり、喋ったりするのは、とても面倒だから私は一人でイイ。
クラスメイトから敬遠されているおかげで窓際の一番後ろという特等席も私にはある。
ガヤガヤと煩い教室の中で私は特等席で本を読むのが好き。
晴れた日に校庭でサッカーをしてる幼馴染みたちの姿を眺めているのも好き。
一人で何か物思いに耽っている時間が私は好き。
「アニー!」
そして、この声は嫌いになった。
気付かなかったように本から目を逸らすことはしない。
それでも声をあげた本人は私の特等席に歩いてくる。
私の時間を潰す、この声が嫌いになった。
パタンと本を閉じて、机の中から英語の教科書を引っ張り出す。
「そろそろ私をダシに使うの止めてくれる?」
「お前以外に文系の奴がいないし…」
「他の人に借りれば?」
「このクラスで先生に気に入られてんの、お前だし…」
切れ長の目で鼻筋も通って、そんなに悪くない顔をしているのに。
小さく息を吐きながら、私は小声で「趣味が悪い」とだけ洩らした。
理系のクラスを選んだくせに私に構ってくるジャン・キルシュタインは趣味が悪い。
私のクラスを担当している先生が好きらしい。
「アニ・レオンハート!」
この声も嫌い。 教室のドアから私を呼ぶ担任教師であるナイル・ドーク。
歴史を担当していて、何かと私に声をかけてくる。
迷惑以外の何者でもない。
「何ですか?」
「教材、運ぶの手伝え!」
「女である私に運べと言うんですか?」
「地図だから軽いし、さっさと来る! そんで、何で理系がいんだ?」
「先生の顔が見たかったようなので、この男に手伝わせるべきです」
「いやいや、冗談はイイから早く手伝えって!」
冗談でも何でもないのに、鈍感というのは厄介なもの。
手伝いたくもないことをさせられるなんて、本当に迷惑でしかない。
英語の教科書を持ってる男に「一緒に来てよ」とだけ言った。
別に恋のキューピッドになってあげるつもりなんかない。
ただ、面倒な手伝いごとを代わりにさせるため。
「女神か、お前…」
「…本当に快適な脳内なんだね…」
エレンの言う通り、この男の脳内は快適極まりないだろう。
担任教師はクラスで孤立している私を気に掛けてくれているらしい。
頼んでもいないことをしないでほしい。
「ん? お前も来たのか?」
「う、え…? はッ、はい…」
「じゃあ、アニには地図な! お前は、この箱な」
地図を渡されたが、これは軽いと言えるレベルのものじゃない。
持てないわけじゃないし、持てるものだけど…。
絶対に軽くはない。 殺意を覚える。
先生は手ぶらで「職員室まで運んでくれ」と頼むだけ。
この地図で後ろから殴りつけてやりたい。
「お前ら、付き合ってんのか? よく一緒にいるよなァ?」
「つ、つつ、つ、付き合ってませんッ!」
呆れるを通り越したら、憐れにしか見えなくなってきた。
この男が好きなのは先生のことなのに、鈍感というのは諸刃の剣みたい。
気が強そうな顔をしてるくせに繊細だから、余計なことを言わないでほしい。
これは同情とかではなく、その愚痴を何故か私に言うから。
他に相談できるような相手を見つければ良いのに。
「アニ、今日は中庭だぞ! 今日は忘れずに弁当を持って来いよ!
この前はすっぽかされて、屋上でぼっちで食べたんだぞ!
おっさんのぼっちな姿はマジ憐れで泣けるんだぞ!」
「私、頼んでませんけど…」
「俺が頼んでんだろ!? 教師の言うことくらい、素直に聞けよ!」
「もう少しマシな授業をしてくれたら考え直すけど…」
何故か一緒に昼食のお弁当を食べることになっている。
私が頼んだわけでもないし、頼むはずもない。
そのことで隣の男がソワソワしていた。
「これ、一緒でもイイですか?」
「ん? 何だよ、おっさんに初々しいカップルの姿を見せ付ける気か?」
「…馬鹿に付ける薬が、早く出来たら良いのに…」
「おっさん、こう見えても一流大学出だから!」
「どうでもいい。 話は戻るけど、これが一緒でもイイの?」
「構わないぞ。 ただ、おっさんの前でイチャつくの禁止な」
するわけないし、するつもりもない。
付き合ってない上に先生が好きなのに、そんなことするわけないでしょ。
私の周りには馬鹿しか集まらないのだろうか。
それなら少し生き方を考え直したほうが良いかもしれない。
こんな馬鹿しか集まらないなんて、意味が分からない。
軽くもない地図を持たされた私たちは職員室へと辿り着いた。
「おっさん、腰が痛くなるから助かった」
「私の休憩時間、どうしてくれるんですか?」
「悪かったよ。 イイ生徒に先生からのプレゼントだ」
「………いらない」
グチャグチャな机に無造作に置いてあったキャップの空いた炭酸飲料を差し出される。
しかも、半分くい減っている。 絶対に飲みかけのもので、そんなのは飲みたくもない。
断られるのは分かっていた先生は「じゃあ、昼休みに飲みもんでも奢るわ」と言ってくる。
「それと、お前も有り難うな」
クシャクシャと髪を撫でられている男は嬉しそうに笑っていた。
こんなに分かりやすい性格をしてるのに、この先生は本当に分かっていないのだろうか。
分かっていて行動しているなら、随分と性質の悪い大人だ。
別に飲み物を買ってほしいと言ってるわけでもないのに先生は「何がイイ?」と聞いてくる。
飲めれば何でも良いし、これじゃないとイヤなんていうものはない。
「何でも良い」
「じゃあ、女の子らしく『いちごオレ』な! お前は何が良いんだ?」
「え? 俺も、ですか?」
「強制的に連れてこられたんだろうが、手伝ってくれたからな。
それにアニには買って、お前に買わないとか差別だろ?」
「えっと、ヨーグルト系なら何でも…」
「ん、分かった。 コイツ、すっぽかすかもしれないから中庭に連れてきてくれ」
用件は済んだとばかりに先生は私たちに手を軽く振った。
隣の男は律儀にも頭を下げたりしているが、私は面倒なのでしなかった。
教室までの廊下を二人で歩いていて、ふと隣の男を見上げてみる。
思わず、小声で「気持ち悪い」と呟いてしまうくらいに顔が赤かった。
紙パックの飲み物を買ってもらえるのが、そんなに嬉しいのか聞いてやりたい。
「ねェ、あれの何処が良いの?」
「先生を『あれ』扱いすんなよ!」
本当に気持ち悪くて、吐きそうなんだけど…。
聞いたのが間違いだったんだと思って、私は足早に教室へと向かう。
あの先生のせいで私の休憩時間が台無しになった。
まあ、隣の男のせいでもあるけど…。
教室に入ろうとしたときに腕を掴まれて、私は驚いてしまって顔を見上げる。
「昼休み、迎えに来るから」
その言葉に教室が軽くザワめいたのに気が付いた。
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