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雲行きが怪しかったから俺はアニと一緒に図書室にいた。
教室でも良いだろと提案したが、不機嫌極まりない顔で却下されたのだ。
俺と付き合っているという噂に巻き込まれるのが本気で嫌だということは分かった。
予報では一時的にゲリラ豪雨があるようで、それが落ち着いてから帰ろうと提案をした。
厚い雲に覆われたかと思うと雨は一気に降ってきて、風の効果も相まって勢い良く窓を叩く。
遠くのほうではゴロゴロという雷の音が地響きのように響いた。
「おー、お前らは勉強かー?」
ガラガラと図書室のドアを開けたのはアニの担任で俺の片思い中の相手であるナイル先生。
笑顔を浮かべた先生は「感心、感心」と俺たちの座っているとこに近寄ってくる。
しかし、すぐに俺たちを見遣ってから訝しげな表情を浮かべた。
「お前ら、こっちに来い」
「へ?」
「イイから、こっちの席に移動!」
意味不明な先生の言葉を不思議に思いながらも俺はノートや参考書や筆記用具をまとめる。
アニも緩慢な動きではあるが、先生の言うとおりに今の場所を片付けていた。
先生が座ったのはダイニングテーブルのような四角い机の場所。
さっきと同じようにアニと向かいの席になるように俺は腰を下ろした。
アニも俯き加減で持っていた教科書や参考書を机に広げる。
地響きのような雷の音に俺はビクリと身体を震わせた。
「アニ、大丈夫か?」
「な、何のこと?」
珍しくアニの声が震えていることに俺は初めて気が付く。
白い華奢な指も小刻みに震えていて、先生は苦笑いを浮かべていた。
アニと俺の手に先生は自分の手を重ねる。
「もうちょい近寄れ」
何時もなら「何言ってんの?」と言い放ちそうなアニが今日は素直に先生の指示に従う。
俺もゴロゴロと地響きのような雷の音に不安な気持ちはあったので席を寄せた。
それから間もなくして、地響きのような音とは別の稲妻が落ちる音が図書室に響く。
「ッ…!」
声にはしていなかったが、アニの小さな身体がビクリと大きく震えた。
それを落ち着かせるように先生は俺とアニの肩を自分のほうへと抱き寄せる。
流石の轟音に俺も身体が震えて、先生は「大丈夫だ」と穏やかに告げた。
滅多に外れることのないアニのポーカーフェイスが見事に外れている。
先生の腕の中で何かに堪えるように身体を震わせていた。
「通り雨だから、すぐに止んじまうさ」
「うん…」
「もう少しの我慢だ」
それだけ言うと先生は俺たちの肩を抱き寄せてくれている。
正直、小さい雷は我慢できるが大きい雷は苦手だった。
雨は嫌いじゃないけれど、雷は嫌いだ。
この逞しい腕に肩を抱かれているだけで少しだけ気持ちは和らいだ。
アニは先生のポロシャツを皺がつきそうなくらいにキツク握り締めている。
元から白い指が更に白くなっているように見えた。
「だーいじょうぶだって…」
「まだ…?」
「んー、もうすぐだ…」
「うん…」
何度か雷の落ちた音に俺とアニは身体を震わせる。
その度に先生は落ち着いた声で「大丈夫だ」と俺たちに声を掛けた。
この年になっても雷が怖いとか馬鹿にされそうだが、怖いものは怖いのだから仕方がない。
しかも、この場合はアニのほうが重症のようだ。
少し雨音が弱まってきたのか窓を叩く雨の音がマシになった。
俺が窓のほうに視線を向けるとアニも同じように窓の外を見遣る。
「雷は止まったみたいだな…」
地響きのようにゴロゴロという音が聞こえなくなっていることに安堵した。
厚い雲も少しだけマシになり、雨の勢いも弱まってきている。
それを確認してからか先生は俺とアニの肩から手を退けた。
「お前ら、何か似たもの同士だな…」
「似てないし、こんな馬面と一緒にしないでくれる…」
「は!? 雷ごときでガッタガタ震えてた奴に言われたくありませんけど!?」
「はいはい! 引き分け、引き分け」
呆れたような口調で先生は座っていた椅子から立ち上がる。
弱みを見せてしまったという気持ちがあるのかアニは気まずそうな表情だ。
クラスメイトの連中も見たことがないであろう一面。
先生は入ってきたときと同じようにペタンペタンとスリッパの音を立てて出て行った。
この空間に二人きりは何だか気まずくて、俺は適当に参考書を開く。
アニも何も言わないで雨が降る前と同じようにノートをまとめていた。
「ホラ、少し休憩すんぞ!」
勢い良く開けられたドアに俺もアニも身体を大きく震わせる。
少し机に近寄ってくると先生は俺に飲むヨーグルトを放り投げてきた。
同じようにアニのほうにはイチゴミルクを放り投げている。
「神経使った後に勉強したって、頭に入らんだろうが…」
先生は同じ席に座って、コーヒーの紙パックにストローを突き刺していた。
俺とアニのノートを眺めると「これじゃあ、成績上位に違いねェわ」と笑っている。
休憩する気になったのかアニも大人しくイチゴミルクの紙パックにストローを刺していた。
この状況で俺一人だけ勉強するのも変な気がして俺も二人に倣う。
自分が思っていたよりも喉が渇いていたのだと気付いた。
窓の外に視線を向けていた先生が小さく笑ったので俺もアニも窓の外を見遣る。
「明日は良いことがあるとイイな」
鬱蒼とした雲の近くに見えた鮮やかな虹に俺たちは小さく笑った。
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