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久し振りの非番の日をジャンはナイルに伝えていた。
だから、意気揚々と憲兵団の兵舎に着くとジャンは師団長の執務室に走る。
今日は何をしてもらおうか、何処に連れて行ってもらおうかと弾んだ気持ちでドアをノックした。
しかし、中からするはずの返事がないのをジャンは訝しげに思う。
ドアノブに手を掛けるとスンナリとドアは開いた。
大雑把な面もあるが、ナイルは用心深い性格をしている。
部屋を出るときに鍵を掛けるということは徹底しているので部屋にはいるはず。
もしかして、トイレとかに行っているのだろうかと室内を見回した。
「なッ…!」
室内を見回して視界に入ってきたのはソファから投げ出された長い足だった。
そろりと近寄ってみるとジャンの思っていた通りでナイルは爆睡中だ。
書類を頭の上に乗せたままで、ピクリとも動かない。
呼吸は穏やかで規則正しい寝息が聞こえる。
部屋にいたことに安堵したが、久し振りに会うというのに酷すぎる。
揺り起してやろうとしたときに後ろから肩を軽く叩かれた。
「アニ…」
何時ものポーカーフェイスでアニが書類を持ったまま首を横に振る。
これはナイルを起こすなということなのだろう。
しかし、それではジャンの腹の虫が納まらないのだ。
「でも…!」
「来て」
出来る限り物音を立てないようにとアニは静かにジャンを部屋の外に連れ出す。
少し執務室から離れたところに来て、早足だったアニの足が止まった。
それと一緒にジャンも足を止める。
ジャンとしては今すぐにでもナイルを叩き起こしたい。
焦れったい気持ちになったジャンはイラついた声で「何だよ」と聞いた。
アニは表情を変えることなく、ジャンの眼前に紙を突きつける。
「これ、あの人のスケジュール」
意味が分からないと思いながらもジャンは突きつけられた紙に目を通した。
その紙にはビッシリと分単位で刻まれたスケジュールがビッシリと書いてある。
今日だけは空白にしておいて、数日は徹夜に近いスケジュールだった。
「少し前にトラブルがあったから、大幅に時間を取られたみたい。
何としてでも今日に仕事を持ち越さないように数日徹夜で業務してたの」
「お前が何で徹夜だって知ってんだよ…」
「手伝えって言われたんだから仕方ないでしょ」
よく見るとアニの目の下には薄っすらとしたクマが出来ていることに気が付く。
しかも、業務量が多かったのか少しだけ疲労の色が見えた。
飄々としているアニが疲弊しているのだから相当な業務量だったのだろうと容易に想像がつく。
「私は何度か仮眠を取らせてもらったけど、あの人は一睡もしてない」
「え…?」
「あの人、数日間は寝てないのに私より大量の仕事をしてた。
業務に支障がないように、それから今日に仕事を持ち越さないために…」
「じゃあ、俺との約束…」
「覚えてるに決まってるでしょ?
そんな馬鹿な人じゃないのはアンタが知ってるんじゃないの?」
ナイルはジャンとの約束を反故にするようなことは一度もなかった。
その約束の日に爆睡してしまう理由があることを自分が理解していない。
しかも、理由も知らずに憤慨してしまった自分が情けない。
確かに一緒にいる時間は少ないけれど、ナイルのことを分かったつもりでいた。
アニに注意されるまで気付かなかった自分は馬鹿だと叱咤する。
「それと食事も殆どしてない」
「え?」
「執務室に何度か持っていったけど、スープくらいしか飲んでなかった。
食べる時間も寝る時間も削ってまで仕事をしてたってことを忘れないで」
それだけ言うとアニはナイルの執務室へと足を向けた。
遠ざかっていく憲兵団のジャケットを着ているアニの背中をジャンは眺めている。
今更だとは思うけれど、自分が憲兵団に入団していればと考えた。
あんな風にナイルと一緒に仕事をして、信頼をされていたのだろうか。
自分が選んだ道なのだから調査兵団に入団したことに後悔はしていない。
「俺って、スッゲェ馬鹿…」
自分のことを大事にしてくれていることなんて分かっていたはずなのに。
些細な約束でも絶対に破らない人だって知っていたはずなのに。
それを当たり前だと思っていた自分が馬鹿だと思う。
自己嫌悪の真っ最中に書類を置いてきたアニが呆れたような表情をしていた。
微動だにしないジャンを眺めて、アニは小さく息を吐く。
「さっき、起きたから行ってあげれば?」
「でも、疲れてんだろ? 休ませてあげたほうが…」
「無断で帰るの? アンタが決めたことに口は出さないけど…」
それだけ言うとアニはジャンの横を通り過ぎた。
欠伸を隠すように口元を隠して、そのまま部屋に戻るのだろうと何となく思う。
会わずに帰るようなことをしてしまったら、ナイルの好意を踏みにじるのも同じだ。
「俺、行ってくる!」
遠ざかるアニの背中に言うとアニは少しだけ足を止めて直ぐに歩き出す。
このまま帰って良いわけがないのは自分で一番分かっていることだったじゃないか。
ジャンは全速力でナイルの執務室に向かって走り出した。
小さく唾を飲み込んでドアをノックすると「勝手に入れー」という声が聞こえる。
聞きたくて、仕方のなかった声音にジャンは涙が浮かびそうになった。
入る前に名を名乗って、勢いよくドアを開ける。
「久し振り…」
笑顔を浮かべているナイルの言葉にジャンは心が締め付けられた。
さっきは書類で顔が見れなかったが、以前よりもヤツれていることに気付く。
そして、アニとは違うのは目の下に濃いクマが出来ていることだった。
「髭とかも全然触れてなくてな、酷い顔でゴメンな」
「そんなの、どうでも良いです!」
こんなに無理をさせたのは自分と約束をしていたから。
アニに言われるまで気付かない馬鹿さ加減に嫌気が差してしまう。
後ろ手でドアの鍵を掛けるとジャンはナイルのほうへとスタスタと歩いていった。
ギュッと強く抱き締めると、あやすようにナイルは背中を撫でてくれる。
その温もりも仕草も何もかもが愛しくてジャンはナイルの名前を何度も呼んだ。
「今日は何処に行こうか?」
どうして、この人は自分を優先しないのだろう。
何時も相手のことばかりを考えて、自分のことなど顧みることをしない。
こんなに疲れきっているだろうに休むことよりも一緒に出掛けることを考えてくれる。
「今日は、ゆっくり休みましょ?」
「おっさんなら、徹夜でも大丈夫だぞ」
「大丈夫なのは分かってますけど、俺も久々の非番だから休みたいです…」
「久々の非番なのに、こんなとこに来させて…」
謝罪される前にジャンはナイルの唇を塞いだ。
自分の言い方も悪かったと言ってから後悔したところだった。
ナイルのことだから「久々の非番だから休みたい」なんて言われると申し訳ない気分になるに違いない。
だからこそ、自分は好きになったんじゃないかと思い至る。
別にナイルの一番になりたいわけじゃない。
なりたくないといえば嘘になるけれど、そういうナイルだからこそ好きになった。
「俺の言い方が悪かったです…」
「ん…?」
「俺がナイルさんに休んでほしいんです」
「そっか…」
「あ、はちみつレモンでも作りますね! 一緒に飲みましょ?」
明るく振舞うとナイルの表情が柔らかく綻んでジャンは少しだけ安心した。
この人には自分の素直な気持ちをぶつけていこうと思う。
はちみつレモンを作る前にジャンは執務室のドアをそっと開けた。
辺りに誰もいないのを確認してからドアノブに『起こさないでください』というドアプレートを引っ掛ける。
これで自分たちを邪魔する人間はいないだろうとニンマリと笑った。
以前から使おうと思っていて、使う機会がなかったのが今回は役立ちそうだ。
「なーに、してんだ?」
「ぅえッ!?」
「お前、手の込んだことするなァ…」
「邪魔されたくないんで!」
執務室のドアをバタンと閉めて、カチャリと鍵を締める。
ジャンの手元を覗き込むような体勢をしていたナイルの顔は至近距離にあるわけで…。
そっと顔を近付けるとナイルは触れるだけのキスをしてくれた。
「とびっきり美味しいの作りますね、ナイルさんのためだけに!」
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『Please Don't Disturb』
ホテル用のドアプレートには、このように書かれてましたが…。
エキサイト翻訳で訳すと『妨害しないでください』でしたwww
色んな意味で妨害はしてほしくないので、そのまま使わせてもらいました☆
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