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憲兵団の師団長に就任してから色々と面倒なことが増えた。
まずは書類の量が尋常ではなく、憲兵団の兵舎に寝泊りすることも多くなった。
出来る限りは早く帰るようにして、子どもたちや妻のマリーとの時間を増やす努力はしている。
それでも缶詰のように執務室から殆んど出られない日も度々あった。
今日も執務室から離れられそうにないと思いながら、こめかみ辺りを親指で押した。
処理をしている間にも違う書類を取りに来る兵士が後を絶たない。
「師団長、例の書類ですが…」
「あー、其処に置いてあるから勝手に持っていけ」
「有り難う御座います」
机の上は書類でゴチャゴチャになっている状況だが、何処に置いてあるかは把握している。
自分で渡すのが面倒なので、処理の終わった書類に関しては別のテーブルに纏めた。
誰が来ても自分で書類を持って行ってもらえるようにだ。
食事もマトモに摂る時間もなく、飲み物でさえ用意するのが面倒だ。
しかし、食事はせずとも飲み物くらいは口にしないと流石にマズイだろう。
今の書類を一通り目を通したら何か飲み物くらいは飲もうと思ったときにノックをされる。
「勝手に入れー」
「えっと、失礼します…」
また憲兵団の兵士が書類を取りに来たのかと思ったが、これは来客のようだった。
視線を向けると調査兵団のジャケットを身に纏っているジャンが顔を覗かせる。
正直、来てから早々に頼みごとをするのは申し訳ない気分になるが…。
「おっさん、少し忙しいんだよ」
「ス、スイマセン…」
「いや、適当に飲み物がほしいから何でもイイから用意してくれ」
「何でも良いんですか?」
「飲めるものなら、何でもイイから」
書類に目を通しながら、視線を上げることなく告げる。
そのナイルの言葉にジャンは「分かりました」と部屋を出て行った。
何かあるのだろうと特に気にも留めずにナイルは新しい書類に目を通し始める。
それから少しして、ジャンがアイスペールと何かの飲み物を持ってきた。
執務室に置いてあるグラスに氷を入れて、その中に牛乳のようなものを注ぐ。
不思議な飲み物を机の上に置かれた。
「何、これ?」
「はちみつレモンですよ?
使ってるのはレモンとはちみつと牛乳です」
「飲めるなら、おっさんは何でもイイんだけど…」
グラスに注がれているものを飲んで、ナイルは意外そうな顔でジャンを見つめる。
謎の液体を飲むまでは味に不安があったのだが、これは意外に美味しい。
ナイルの視線を受けて、ジャンは軽く笑う。
「意外に美味しいでしょう?」
「おっさん、ナメてた」
「目の疲れにイイものばかりですから」
「熱い紅茶とか用意されたら、どうしようかと思ってた」
「そんなに忙しそうなのに熱い飲み物とか用意しませんよ、流石に…」
猫舌ではないにしても、わざわざ湯気を払っている余裕はない。
喉越しもよく、氷が入っているので冷たくて、飲みやすい。
こんなにも気の利いたことが出来るんだなと思いながら、ナイルはグラスを空にした。
構ってやりたいのは山々だが、今の状況では数時間は無理そうだ。
少ししてからジャンはナイルの執務室を出て行った。
この状況を見ると出て行きたくもなるだろう。
「悪いことしたなァ…」
わざわざ王都にまで足を運ばせた挙句に飲み物だけ用意させただけ。
しかし、ジャンに構っている余裕がないのも事実。
今度、来たときには時間を空けといてやろうと考えていた。
着実に書類の量は減って、半時間もすれば一息吐けそうだと表情が綻ぶ。
喉が渇いたと思っても少し我慢しようと書類にサインをした。
「失礼しまーす」
ノックの後に続いたのは憲兵団の兵士ではなくジャンの声だった。
てっきり調査兵団へ度帰ったのかと思ったが、そうではなかったらしい。
先程と同じようにグラスに数個の氷を入れてから飲み物を注いでくれている。
「此処に簡単な食事を置いておきますね」
それなりに綺麗なテーブルではなく、何も置かれていない戸棚の上に皿の乗ったトレイを置いた。
グラスに口を吐けながら、ナイルはジャンの気の使い方が心地良いと思う。
余り物が置かれていないテーブルではあるが、其処には書類が色々と分けてあるのだ。
憲兵団の兵士が勝手に持って行けるように乱雑ではあっても分かるように区別している。
其処には一切触れずに何も置いていない戸棚の上を選んでおいた。
テーブルにトレイを置けるスペースがあるにも拘わらず。
「なァ、今からでも憲兵団に来ない?」
「いきなり何なんですか?」
「仕事の出来る部下がいるリヴァイが羨ましい、おっさん」
それから半時間もしないうちに今日中の書類は何とか処理できた。
昼過ぎに終わったので午後からは少しずつ処理をしていけば良いだろう。
ペンを机の上に置いたら、はちみつレモンのグラスが置かれる。
「おっさんにしてほしいことある?」
「へ?」
「御礼をさせてほしいなと、おっさん的に思っただけ」
「えっと、その…、あの…」
少し戸惑っているジャンを促すわけでもなく、ジャンが口を開くのを気長に待った。
それから小さく口を動かしたが、流石に声が小さすぎて聞こえない。
読唇術も身に着けていないので分からずにナイルは首を傾げる。
トレイを机の上に置いたジャンはナイルの前まで歩いてきた。
何を言うのだろうかと椅子に座ったナイルはジャンの顔を見上げる。
「ギュッてしても、イイですか…?」
思いもよらない提案にナイルは「は?」と間抜けな声を洩らしてしまった。
そのナイルの声にジャンは顔を真っ赤にして、「今のはイイです!」と拒否ってくる。
ナイル的には『そんなことで良いのか?』と思っただけの話。
「シャワーは浴びてるけど、数日は家に帰ってないから臭いかもよ?」
「いや、そっちの方が…」
「え? 匂いフェチなの? おっさんの匂いが好きなの?」
「変な言い方しないでくださいよ! ナイルさんの匂いが好きなだけです!」
充分に匂いフェチの素質があるじゃないかと思いながら、ナイルは苦笑いを浮かべる。
それから椅子に座ったままで両手を広げて、ナイルは「どうぞ」と告げた。
視線で『本当に良いのか?』と聞いてくるので軽く微笑む。
恐る恐るという感じで近付いてきたのでナイルは強引にジャンの腕を引っ張った。
バランスを崩したジャンを支えるように身体をギュッと抱き締める。
「おっさん、臭くない?」
「ナイルさんの匂いがします」
「変態っぽいけど、色んな意味でホントに大丈夫か?」
「人の好みに口出ししないでください! 俺はナイルさんの匂いが好きなんだから!」
変態に走らなければ良いのだがと思いながら、ジャンの華奢な身体を抱き締める。
身長は同じくらいだというのにキツく抱き締めたら折れてしまいそうだ。
ジャンもナイルの腰辺りに腕を回して、身体を密着させる。
「今日は助かった」
「俺、飲み物と食事の用意しただけです」
「それでも、おっさんは助かった」
褒めるように頭を撫でると小さな声で「もっと撫でてください」と強請ってきた。
自分が想定していたよりも早く仕事が終わったので少しくらいの我侭は良い。
頭を何度も撫でてやり、それから耳の裏を指で軽くなぞった。
それだけでジャンの身体がビクリと大きく震えたので思わず吹き出す。
まさか、こんなに反応されるとは思ってなかった。
「お前、全身が性感帯みたいな反応するんだな」
「ナイルさんの発言のほうが変態っぽいですよ…」
「此処とかは?」
軽く背中を指でなぞっただけなのに腕の中にある身体がビクビクと震える。
初々しい反応に悪戯をしてやりたくなるが、これは御褒美なのだから嫌がることは止めておこう。
この子どもに手を出したら、間違いなく調査兵団の団長と兵士長が怒鳴り込んでくる。
「もう離しても良い?」
「ダメです、もう少しだけ…」
「おっさんが欲情したら、ちゃんと相手してくれんの?」
「…ナイルさんが相手なら、俺は構いませんから…」
自分で墓穴を掘ったと思いながら、大きく息を吐くと共にナイルは天井を仰ぎ見た。
取り敢えず、この子どもが満足するまでは好きにさせておこう。
何れは離してくれるだろうし、ジャンも調査兵団に戻る時間があるだろうから。
グラスの中の氷がカランと音を立てたのが、大きく聞こえたような気がした。
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