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調査兵団に入団をしてみたものの、驚くことばかりでジャンは戸惑いを隠せなかった。
リヴァイは異常なまでの潔癖症でハンジは異常なまでの巨人狂い。
まだマシなのが団長であるエルヴィンだが、何を考えているか全く分からない。
自分の中で『やっていけるのだろうか』と不安を抱えているときだった。
憲兵団の師団長であるナイルに声を掛けてもらったのだ。
正直、救われたような気分になった。
「来てみたけど、いるのかな…?」
王都の近くまで来る機会があったのでジャンは憲兵団へと足を向ける。
会える確率は全く不明で見つかるかも分からない状況だ。
それでも近くに来たのだから少しでも話がしたいと思った。
『メッチャ睨まれてる…』
調査兵団のジャケットを着ているせいか憲兵団の兵士の視線が痛い。
余りに視線が痛いのでナイルの居場所を聞きたくても聞けない。
人類を守るという役割は同じなのだから、そんなにも敵視しなくても良いだろうに。
そんなことを考えながら、ジャンはナイルの姿を探す。
知らない場所ということもあって、自分の居場所さえも分からない。
『ヤバイ、このままだと迷子になる』
現時点で迷子のような状況なのでナイルを見つけるしか方法はない。
同じようなところをクルクルと回っているような気分になった。
何処の廊下も似すぎていて、もう何処が出入り口か分からない状況だ。
『案内図とかあれば良いのに』と思うが、調査兵団にもないので憲兵団にもあるわけがない。
このままでは物凄い睨み付けてくる憲兵団の人間に聞かなくてはならない。
出来る限り、遠慮したいことだ。
「広すぎ!」
一人でウロウロと彷徨っていて、見覚えのある姿を見つけたときは本気で嬉しかった。
漸く目的だったナイルを見つけることが出来て、ジャンの表情は自然と綻ぶ。
見失うと迷子になるのでナイルのいるほうへと駆け寄った。
「ナイルさん!」
「ん? おう、どした?」
王都に来たときにしかナイルの顔を見ることが出来ない。
社交辞令で『話くらいは聞いてやるよ』と言ってくれたのを覚えてくれているだろうか。
そんなことを思いながら、ジャンはナイルへの距離を縮める。
「何かあったのか?」
「はぇ?」
「ん? 話を聞いてほしくて、声を掛けたんじゃなかったのか?」
あんな些細な約束でも覚えてくれていたのだと思うだけでジャンは嬉しかった。
ナイルの言葉に苦笑いを浮かべたじゃんは「お言葉に甘えてもイイですか?」と尋ねる。
憲兵団の師団長でもあるナイルに図々しい頼みごとをしているという自覚はあった。
それでも調査兵団では言えないようなことがあるのも事実。
時間があるのであれば、少しだけでも話を聞いてほしいというのが本音なのだ。
しかし、師団長が暇なわけがないとジャンは思い至る。
「やっぱり、忙しいですよね…」
「急ぎの仕事は済ませたから話くらいなら、おっさんが話を聞いてあげよう」
「ナイルさん、おっさんって…」
「お前から見たら、俺なんか『おっさん』だろ?」
調査兵団には絶対にいないタイプの人だなとジャンは好感が持てる。
エルヴィンは紳士でリヴァイは近寄りがたいタイプの人間だから。
年齢は近いだろうが、二人とも自分を『おっさん』とは言わないだろう。
「こんな場所まで、よく辿り着けたなァ」
「いや、凄い迷いました…」
「迷子預かり所はねェから、おっさんを見つけられた幸運に感謝しろ」
「冗談抜きにラッキーでした」
ジャンの言葉にナイルは笑って、兵舎の中を案内してくれた。
記憶力は良いほうだと自覚しているので帰りは迷うことなく帰れそうだ。
きっとナイルの教え方が良いということもあるのだろう。
それから話を聞いてもらうべく、場所を移動しようということになる。
何処かの広場にでも行くのかと思っていたが、ナイルは自分の執務室にジャンを案内した。
憲兵団の師団長なのだから豪華な執務室かと思っていたが、意外にも質素な造りだった。
「適当に座っとけ」
「あ、はい」
エルヴィンやリヴァイと違って、随分と物がゴチャゴチャとしている。
ドアをノックする音が聞こえたのでナイルは「おう、入って良いぞ」とだけ言った。
憲兵団のジャケットを着た男は一瞬だけジャンを見て、驚いた表情を見せる。
調査兵団のジャケットを着ている人間が師団長の部屋に来ているのだから当然かもしれない。
ナイルが「あー、書類な」と言って、ごった返している机から探し始めるのかと思った。
しかし、ナイルは直ぐに書類まみれの場所から書類を渡した。
「じゃあ、後の処理は頼む」
「はい、失礼します」
書類を受け取った兵士は執務室から出て行き、ナイルは紅茶の用意を始める。
エルヴィンやリヴァイの紅茶の淹れ方を多く見てきたから言葉を失ってしまった。
紅茶の淹れ方がビックリするくらいに適当なのだ。
「あー、おっさんは飲めればイイから適当に淹れんだよ。
もしかして、アイツらみたいに紅茶には拘るほうだった?」
「いえ! 実は俺も飲めればイイと思ってるので…」
「だよなー」
紅茶もティーカップとかではなく、マグカップに淹れてあるのが新鮮だった。
ミルクと砂糖を瓶ごと置かれるのも初めての経験で好感が持てる。
リヴァイに関してはミルクの入れ方にも拘りがあるので飲むまでに時間が掛かるからだ。
ナイルは自分のマグカップに適当に砂糖とミルクを入れるとジャンにも勧める。
お言葉に甘えることにして、ジャンは何時もより砂糖を多く入れさせてもらった。
少し甘めのミルクティに表情が和らいだ。
「どうよ、調査兵団は?」
「あー、気が抜けないって感じがします…」
「頭がブッ飛んでる奴らが多いから仕方ないが、俺も人のことは言えねェしなァ」
「ナイルさんは、優しいと思いますけど…」
こんな話はエルヴィンにもリヴァイにもハンジにも出来ない。
それからナイルはジャンの話を色々と聞いてくれた。
しかも、話の促し方が上手い。
日頃、調査兵団では絶対に言えないような愚痴もポロポロと言ってしまう。
リヴァイの掃除や紅茶の淹れ方についての話やハンジの予想を超える発想や言動について。
言い終わった後に『言い過ぎた』とナイルの様子をチラリと見遣った。
「おっさん、チクッたりする趣味ないから」
「気を遣わせて、スイマセン…」
「いやァ、あの面子に囲まれる生活は疲れると思うしな。
おっさんだったら、即行で退団してるから続いてる分は偉いと思うけど?」
さり気ないフォローを入れてくれたりするのを聞くたびに優しい人なんだと感じる。
同期であっても調査兵団の愚痴などは言いにくいのでナイルが話を聞いてくれるのは有り難い。
ふと時間を見遣ると、相当な時間が過ぎていたことに気付いた。
「ス、スイマセンッ! こんなに長々と時間を無駄にさせて…!」
「おっさんが自分で話くらいなら聞くって言ったから気にするこたないぞ?
エルヴィンとリヴァイへの言い訳は考えといたほうがイイと思うな、おっさんの経験上!」
「調査兵団に戻るまでに考えておきます」
「真面目でイイ子だな、お前は」
空になったマグカップを回収する前にナイルはジャンの頭を軽くポンポンと叩く。
こんな風に頭に触れてくれる人なんて、誰もいなかったから嬉しいと感じた。
そして、年齢の差を見せ付けられているような気もする。
ナイルにとっては自分は子どもでしかないのだと感じてしまうのだ。
「送ろうか?」
「いえ! 其処まで時間をいただくのは申し訳ないので…!」
「迷ったら、戻ってきたら良いからな」
ナイルの一言一言が優しくて、ジャンの心を温かくしてくれる。
殺伐とした気持ちから少しだけ解放されたような気分で、また来たいと思ってしまう。
執務室を出る前にジャンは少しだけ足を止めた。
「あの、また来ても良いですか…?」
「おっさんの部屋で良ければ、何時でも来てくれて構わないけど?
何時もいるとは限らないから見掛けたら、何時でも話に来たら良いんじゃない?」
「はい! 有り難う御座います!」
心が晴れやかになった気がして、ジャンは笑顔を浮かべる。
そんなジャンの笑顔を見たナイルは少しだけ表情を和らげてから書類を手に取った。
今度こそ執務室を出ようとしたときにナイルが「あ」と小さく声を洩らす。
何かと思ったジャンはナイルの方へと視線を向けた。
引き出しをガサゴソとしたナイルはジャンのほうに向かって歩いてくる。
「何時も頑張ってる子にご褒美をあげよう」
首を傾げると手を出すように言われたのでジャンは素直に手を出した。
その手の平に置かれたのは包装された3つの飴玉だった。
ピンクと黄色と水色の飴玉を調査兵団のジャケットにあるポケットに仕舞う。
「前にも言ったけど、おっさんは畏まられるの苦手だから」
「えっと、尽力します…」
「イイ子」
くしゃくしゃとジャンの髪を掻き混ぜたナイルは机のほうへと戻っていった。
その後姿を見てからジャンは「失礼しました」と礼を言ってから執務室を出て行く。
ポケットに仕舞った飴玉の感触だけで何だか心が弾んだ。
1つだけポケットから取り出して、口に入れようかと思った。
しかし、何だか勿体ないような気がしたので結局はポケットに仕舞いこむ。
「団長と兵長に何て言おうかな…」
正直に憲兵団の兵舎で迷いましたとでも言っておこうか。
きっと二人には通じない気がする上に『何故、憲兵団に行ったんだ』と問い詰められそうだ。
上官やらの愚痴を零してましたなどと言えるわけもないので上手い口実を探さなければならない。
次は兵役時間以外の時間に来てみよう。
そうしたら、エルヴィンやリヴァイに問い詰められるようなことはないだろう。
しかし、それ以外の時間だとナイルに迷惑が掛かるかもしれない。
「次の約束しとくんだった…」
今更、後悔をしても遅いことだと思いながらも小さく呟いた。
もう迷うことはないだろうから兵役時間中に来て、次の約束を取り付けてみよう。
そんなことを考えるだけで少し足取りが軽い。
あの人までの距離は、どれくらいまで縮まった?
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