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兵長は約束通り俺の誕生日を俺と一緒に過ごしてくれた。
その日を休暇にするために異常な速さで業務をこなしてきたらしい。
疲れ気味な兵長に我が儘を言うことなんか出来るわけがない。
「兵長、今日は休みましょう?」
「あ?」
「鏡、見ました?」
「そんなもん見てねェよ」
目の下にあるクマに俺は苦笑いを浮かべるしかない。
俺の誕生日を俺と過ごすために兵長は無理をしてくれたんだ。
それだけで幸せなんですよ、兵長。
手鏡を兵長に渡すと訝しげな表情で鏡を見つめる。
自分の顔を見た兵長は「悪い」とだけ小さな声で謝った。
何でアンタが謝るんですか。
「ヒデェ顔だな…」
「今日のために無理をしてくれたんですね」
「無理なんかしてねェ」
「下手な嘘、止めてください」
無理をしてないのに、こんな顔になるわけがない。
今日は互いの休息日にしましょうと俺が提案すると兵長は小さく舌打ちをする。
アンタが俺を好きでいてくれているってだけで俺は幸せなんですよ。
兵長は自分の誕生日のとき、俺にハッキリと言いましたよね。
その言葉、そっくり返しちゃいますよ?
「兵長が生きていてくれることが俺にとってのプレゼントです」
「人のプレゼントをパクんな、クソガキ」
呆れたように呟いた兵長は俺に「こっちへ来い」とだけ言った。
そして、疲れきっているのか俺へと身体を委ねる。
正直な感想としては『重い』だろう。
「眠い…」
「俺も余り寝れなかったんですよ、今日が楽しみすぎて…」
「悪いな、テメェの誕生日を祝ってやれなくて…」
その言葉に俺は「一緒にいてくれるだけでイイんです」と返す。
俺の生まれた日に好きな人と一緒に過ごせるなんて、それだけで幸せじゃないか。
祝いの言葉なんかもらえなくてもイイんですよ、俺は。
兵長の身体を支えながら、ベッドのほうへと足を向ける。
燃料切れみたいにベッドに倒れ込む兵長に愛しさすら感じるんです。
俺と一緒の時間を過ごすためだけに無理をするなんてバカです。
「誕生日、おめでとう…」
「はい、来年も一緒に過ごしましょうね」
「来年の書類は瞬殺してやるから大丈夫だ」
「期待しないで待ってますよ」
そう言うと兵長は明らかに機嫌を損ねてしまったようだ。
兵長の身体をベッドに引き上げてから俺もベッドに潜り込んだ。
太陽と清潔感のある匂いに俺は安心してしまう。
ギュッと抱き締められたので俺も兵長の身体を抱き締めた。
こういうとき、俺の身体がショボイんだなと思い知る瞬間でもある。
人類最強なんですから俺と身体つきが違っても仕方ないですかね。
「テメェ、少し痩せたか?」
「ほんの少しだけですけどね、すぐに戻りますよ」
それを聞いてから兵長は俺の指に自分の指を絡めてくる。
手の大きさや指だけでも格差を見せ付けられたような気分になった。
仕方のないことだとは思ってるけども苦笑いを浮かべてしまう。
「早く太れ」
「太るって言い方は変でしょ…」
「じゃあ、早く戻れ」
「いきなり何なんですか」
そんな遣り取りをしながら、俺たちは朝から兵長のベッドで寝た。
気持ち良く起きたのは昼を少し過ぎた時間だった。
隣では未だに爆睡中の兵長がいる。
俺の身体をガッチリとホールドしており、これは逃げ切れそうにない。
目を閉じている兵長は何時もよりも少し幼く見える。
「睫、長い」
何時もは俺のほうが遅く起きるので兵長の寝顔を見れるのはレアだ。
しかも、こんな至近距離で見ることが出来るのは俺の特権。
この特権が誕生日プレゼントでイイや。
「人の顔、観察すんな…」
「あれ? 起きてたんですか?」
「遠慮ねェ視線に耐えられるほど、俺は落魄れてねェぞ」
薄っすらと開けられた目は少し眠そうだ。
自分の視線で起こしてしまったのかと思うを少し申し訳ない気分になる。
ふあっと小さく欠伸をした兵長は俺の身体を更にキツく抱き締めた。
これは少し苦しいかもしれない。
兵長に「苦しいですって」と言うと更に力を込めてくる。
いやいやいや、マジで痛いから腕の力を緩めてくださいってば!
「苦しいを通り越して、痛いですって!」
「もっと筋肉を増やせば、マシになる」
「そういう問題じゃないでしょ! 痛い、痛いって!」
痛いを連呼すると漸く腕の力を緩めてくれた。
それでも痛くなくなっただけで俺の力では振り解けそうにない。
やっぱ、人類最強は違うよな。 色んな出来がな。
「痣になっちゃいますよ、これ…」
「悪くない」
「いえ、俺的には遠慮したいんで止めてください」
「チッ…」
舌打ちって、何なんですか…。
少し寝たおかげで兵長の疲れも少しはマシみたいだ。
あの力で俺をホールドできるんだから、それなりに回復してるんだろう。
抱き締められながら、「飯でも食いに行きません?」と尋ねた。
特に何もしてなくても時間が過ぎれば勝手に腹は減る。
「何か食いに行くか、奢ってやるよ」
「俺の誕生日ですからね」
「は、新兵のテメェに奢らせたくねェだけだ」
ホントに天邪鬼なんだなと思っていると兵長は身体を起こした。
俺は兵長がくれるものなら、何だって受け取りますよ。
愛情もプレゼントも痛みすらも兵長が俺に与えてくれるもの全部を愛しく思います。
「飯を食う前に俺は寄りたいところがある」
「は、はぁ…」
「この場所で待ち合わせだ」
地図を渡されて、丸をされた場所を指差された。
寄りたいところがあるなら、俺も一緒に行きたいんだけど…。
でも、誘ってこないということは来てほしくないのかも。
我が儘を言える立場じゃないよなと俺は自分に何とか言い聞かせる。
それに兵長は俺を相当な感じで甘やかしてくれてるんだから。
「悪いな、一緒に行ってやれなくて…」
「い、いえ! 兵長と一緒にいれるだけで嬉しいです!」
それだけ言うと俺は鏡を見てから簡単に髪を整える。
ついでに顔も洗っておこうっと。
兵長のタオル、イイ匂いするから好きなんだよな。
「じゃあ、俺は店で待ってますね!」
「ああ、俺も早めに行く」
こうして兵長と二人で食事とか何だか嬉しい。
新兵と兵士長という溝が大きくて、何時もは少し近寄りがたいから。
店に行こうとしたところでサシャとコニーに捕まった。
「あ、ジャン! コニーと一緒に選んだ誕生日プレゼントです!」
「悪いな、気を使わせちまって…」
「ふふ、私の誕生日のときに倍返ししてくれたらイイですよ☆」
「コニーと一緒に検討しとく」
サシャとコニーからのプレゼントを部屋に持っていこう。
部屋に戻ろうとしたら、ライナーとベルトルトからもプレゼント。
更にはエレンとアルミンとミカサからのプレゼントが追加。
幸せものだなと感じながら、俺は部屋に戻るとプレゼントを置いた。
結構、時間をくってしまったとジャンは部屋を飛び出す。
「これ、兵長を待たせるパターンじゃね?」
店へと全速力で走って、息切れが半端なかった。
約束していた店に入ると優雅に紅茶を飲んでいる兵長の姿が見える。
やっぱり、待たせるパターンだったか…!
「スイマセン、遅れて…」
「テメェを待ってる時間は嫌いじゃねェからな」
やっぱ、俺はマジで幸せものだ。
兵長の向かいの席に腰を下ろすと兵長がメニューを渡してくる。
それから「好きに選べ」と言われたが、何を頼んで良いのか分からない。
あんま贅沢なもんを頼むわけにはいかないし…。
メニューと格闘していると痺れを切らした兵長が店員を呼んだ。
「この店で一番高いランチを2つ持って来い」
「ちょっ…! な、何言ってんですか!」
「俺は腹が減ってんだ。 さっさと決めねェのが悪い」
何か尤もらしく言ってますけど、やってることは滅茶苦茶ですよ。
見たこともないような食事が並んで俺は目を丸くした。
味は当たり前だが、ムチャクチャ美味しかった。
食べ終わると兵長と一緒に紅茶を楽しんだ。
店を出てからは何か目的があるわけでもなくブラブラと街を歩く。
平和だよな、この風景。 子どもたちが無邪気に笑っている。
「イイですね、こういうの…」
「あ?」
「兵長がいなかったら、もっと色んな人が泣いてたのかも…」
人類にとって、掛け替えのない人間なんだと思い知る。
勿論、俺にとっても兵長は掛け替えのない人だ。
俺が死ぬまで変わることはないだろう。
「また来年も一緒に来ましょうね! 二人で!」
「ああ、テメェも死なねェようにしろよ」
そんな他愛ない約束が俺を強くしてくれるんですよ。
来年も一緒なら、再来年も一緒に過ごそう。
再来年も過ごせたら、その次の年も同じように一緒に年を重ねていこう。
互いの命が尽きるまで一緒に過ごしていこうと思った。
街から戻ってくると同期たちが帰りを待ちわびていたのには驚く。
今日は兵長と一緒に過ごすつもりだったんだけど…。
勿論、隣には眉間のシワを深くした兵長。
「来年からは翌日に祝ってもらえ」
「そう言っときます」
「じゃあな」
それだけ言うと兵長は自分の執務室へと戻っていく。
俺は同期たちの元へと走っていき、祝福の言葉を色々ともらった。
勿論、兵長と過ごす時間は好き。
でもさ、こういう風に同期たちと馬鹿騒ぎするのも好き。
寝るまで間、俺たちは賑やかな時間を過ごした。
翌日、俺は何時もと同じ時間に何時もと同じベッドで起きた。
気を引き締めないとなと思い切り背伸びをしようとしたときだった。
コツンと何かが手に当たった。
「箱?」
それは小さな箱で綺麗にラッピングがされてある。
近くにはメッセージカードが置いてあるから、それを先に読んでみた。
几帳面な字で誰のものかなんて、直ぐに分かってしまう。
『今のテメェにはピッタリなサイズで作らせてある。
本当は少しキツめにするつもりだったんだが、痩せたみたいだからな。
来年は違うのを買うつもりだが、出来るだけなくさないように心掛けろ』
丁寧に箱のラッピングを解くと中に入っていたのは指輪だった。
シンプルなデザインだが、綺麗な模様が描かれている。
内側には互いのイニシャルが彫られていた。
左手の薬指に嵌めてみると確かにピッタリだった。
だから、兵長は「早く太れ」と言っていたのかと笑ってしまう。
体重が戻るまでは首飾りにでも付けておこう。
『この世界に生まれてきてくれて、ありがとう』
最後の一言に俺は嬉しくて、涙が止まらなかった。
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